家電量販店でプリンターを見ていると、本体価格だけがやたらと目立ちます。5000円を切る機種もあれば、2万円近くする機種もある。多くの人はここで「安い方で十分じゃないか」と考えます。でも、その判断、半年後には後悔するかもしれません。
本体が安ければお得、という思い込み
結論から言うと、プリンターは本体価格だけで選ぶと、トータルの出費はむしろ高くなることが多いです。本体価格とランニングコストは、別々に見る必要があります。
プリンターというのは、本体を売る段階ではメーカーもそれほど儲けていません。利益の多くは、その後に買い続けるインクやトナーから出ています。これは業界ではよく知られた話で、いわゆる「本体安売り・消耗品で回収」というビジネスモデルです。だから本体価格が安い機種ほど、インクのページ単価が高めに設定されている傾向があります。
たとえば、本体価格が6000円の機種と15000円の機種があったとします。6000円の方を選んで3年間使うと、インク代だけで本体価格の3倍近くかかることも珍しくありません。一方で15000円の機種は、1本あたりの印刷コストが抑えられていて、年賀状や資料を頻繁に刷る家庭では、むしろ総額で安く収まることがあります。
ただし、年に数回しか印刷しない人にとっては話が変わります。印刷枚数が少なければ、インク単価の差はほとんど効いてきません。この場合は、素直に本体価格が安い機種を選んだ方が合理的です。「どれくらい刷るか」を抜きにして、本体価格だけで優劣をつけるのは早計だということです。
実際の費用は「本体+インク×使用量」で決まる
プリンターの本当のコストは、本体価格に加えて、インク代と印刷枚数を掛け合わせた数字で見るべきです。これを意識するだけで、選び方はかなり変わります。
仕組みはシンプルです。インクカートリッジには「何ページ印刷できるか」というおおよその目安があります。これとインクの価格を割り算すると、1ページあたりの印刷コストが出ます。メーカーのカタログや公式サイトに、この目安ページ数が載っていることが多いので、気になる機種があれば確認してみてください。
具体的な場面で考えてみます。月に50枚ほど年賀状やプリントを刷る家庭があるとします。1ページあたりのインクコストが5円の機種と15円の機種では、年間で見ると3000円ほどの差になります。3年使えば9000円。これは本体価格の差を軽く超えてくる金額です。逆に、月に5枚程度しか刷らない家庭なら、同じ条件でも年間の差は300円程度にしかなりません。
ここで迷いやすいのが、カラー印刷と黒インクだけの印刷でコストがまったく違う点です。写真を頻繁に刷る人は、カラーインクの消費が一気に増えます。逆に書類中心の人は黒インクだけで済むので、カタログ上の「1ページあたりのコスト」よりも実際の出費は低く収まることもあります。自分がどんな印刷をするかを思い浮かべながら比較するのが現実的です。
なぜ本体価格だけで判断してしまうのか
これは人間の心理として、わりと自然なことです。店頭やネット通販で最初に目に入るのは、大きく表示された本体価格だからです。インクの価格やコストパフォーマンスは、よほど探さないと出てきません。
理由を順に見ていくと、まず価格表示の仕組みがあります。家電量販店のPOPも、通販サイトの検索結果も、並んでいるのは本体価格だけです。インク代は商品ページの奥の方、スペック表の下の方にひっそり書かれていることが多く、比較する手間がかかります。わざわざ電卓を叩いてページ単価を計算する人は、そう多くありません。
場面を想像してみてください。年末の買い替えシーズン、量販店の売り場で3種類のプリンターが並んでいます。隣同士の価格差は3000円。その場で決めようとすると、ほとんどの人は安い方を選びます。インクのランニングコストまで調べる余裕も、情報もその場にはないからです。これは判断が甘いというより、情報の出し方がそうなっているだけとも言えます。
ここは少し意地悪な見方かもしれませんが、メーカー側もこの心理を織り込んで価格設定をしている面があります。本体を安く見せて購入のハードルを下げ、インクで回収する。これ自体は悪いことではなく、商売として成立している仕組みです。ただ、買う側がその構造を知らないまま選ぶと、思ったより出費がかさむという結果になりやすいのです。
インクの型番とページ単価、実際にどう比べるか
比較するときに見るべきポイントは、インクの型番と、そのインクで印刷できる目安ページ数です。このふたつが分かれば、おおよそのランニングコストが見えてきます。
手順としては、まず気になる機種の対応インク型番を調べます。メーカーの製品ページや、インクを販売しているサイトに「標準容量」「大容量」といった表記とともに、印刷可能枚数の目安が載っています。次に、そのインクの実売価格を調べ、印刷可能枚数で割ります。これで1ページあたりのコストが出ます。黒インクとカラーインクは別々に計算した方が、実態に近づきます。
具体的に考えると、ある機種の黒インクが大容量タイプで1500円、印刷可能枚数が600ページだとすると、1ページあたり2.5円になります。別の機種が黒インク800円で300ページなら、1ページあたり約2.7円。一見近い数字ですが、月100ページ刷る人なら年間で数百円の差になり、3年使えば決して無視できない金額になります。
ここで迷いやすいのが、大容量インクに対応していない機種の存在です。本体価格が安いモデルほど、標準容量のインクしか使えず、結果的にページ単価が高止まりすることがあります。逆に、同じメーカーの少し上位機種だと大容量インクに対応していて、長く使うほど差が縮まる、あるいは逆転することもあります。購入前に「このモデルは大容量インクに対応しているか」を確認するだけで、判断の精度はかなり上がります。
結局、どこで線引きして選べばいいのか
実務的な判断としては、「年間の印刷枚数」をまず自分なりに出してみることです。これが分かれば、本体価格とインク代、どちらを重視すべきかが自然と決まります。
印刷枚数の目安がつかめたら、候補の機種それぞれで「本体価格+年間インク代×想定使用年数」を計算します。面倒に感じるかもしれませんが、紙に書き出すだけで十分です。だいたい3年使うと仮定して、本体価格と年間インク代を足し合わせると、どちらが総額で得かが見えてきます。
場面で考えると、学生の一人暮らしで月に数枚しか印刷しない人は、本体価格が安い機種を選んで何の問題もありません。3年使っても総額の差はわずかです。一方で、在宅ワークで資料や写真を頻繁に刷る家庭、子どもの学校プリントや年賀状をまとめて刷る家庭は、少し本体価格が高くても、インクコストの低い機種を選んだ方が結果的に出費を抑えられます。
ここは迷うところですが、印刷頻度が「中くらい」の人が一番判断に悩みます。月20〜30枚程度の印刷なら、どちらの機種を選んでも差は年間1000円前後に収まることが多く、そこまで神経質になる必要はありません。それよりも、インクの入手しやすさや、故障したときの修理対応、複合機なら印刷以外の機能(スキャンやコピーの使いやすさ)で選んだ方が、満足度は高くなります。数字だけを追いすぎて、使い勝手を置き去りにしないことも、選び方のひとつだと思います。

