スマホの背面に「IP68」と書いてあるのを見て、なんとなく「水に強いやつだ」と思っている人は多いと思います。でも、この数字の意味を正しく説明できる人は意外と少ないです。実際、IP表示を過信して水没させてしまった、という相談は家電量販店の店員さんからもよく聞きます。今回は、防水・防塵表示まわりの誤解を、ひとつずつ整理していきます。
IPの数字は大きいほど万能、は本当か
結論から言うと、IPコードの数字は「万能さ」を示しているわけではありません。前の数字が防塵、後ろの数字が防水の等級を表していて、それぞれ別の試験をクリアしたことを示しているだけです。たとえばIP68なら、防塵は最高等級の6、防水は8という意味になります。
ここで大事なのは、この等級が「特定の条件での試験結果」だという点です。防水の等級は、どのくらいの水深に、どのくらいの時間沈めても浸水しなかったか、という試験に基づいています。規格によって試験条件の範囲があり、メーカーが独自に決めた条件で合格ラインを満たしている場合もあります。つまり同じ「8」でも、メーカーが公表する耐水時間や水深の目安が違うことがあるわけです。
具体的な場面を考えてみます。IP68表示のスマホを持って、友人と川遊びに行ったとします。浅瀬で水をかけ合うくらいなら問題ないことが多いですが、川に落としてしまったらどうでしょう。真水ではなく、泥や石を含んだ流れのある水です。試験は静止した清水で行われるのが一般的なので、流れのある水や、水圧がかかる状況は想定の範囲外になりがちです。結果として「IP68なのに壊れた」という事態が起こります。
例外として押さえておきたいのは、そもそもIPコードが付いていても「完全防水」とは書かれていない、という点です。メーカーのサイトを見ると、たいてい「生活防水」「一定の条件下での耐水性」といった注意書きが添えられています。ここを読まずに数字だけで判断すると、思わぬ故障につながります。
お風呂で使っても平気、という思い込みは危ないか
危ない場合があります、というのが正直な答えです。防水表示があっても、お湯には弱い製品が多いからです。
理由はシンプルで、防水試験の多くは常温の真水を前提にしているからです。お風呂のお湯は温度が高く、さらに入浴剤や石けんの成分が混ざっていることもあります。温度差や化学成分は、パッキンのゴムを劣化させたり、本体内部の結露を招いたりする原因になります。つまり水そのものには耐えられても、お湯という条件には対応していない、ということが起こり得るのです。
場面を想像してみてください。防水スピーカーを湯船のふちに置いて、40度くらいのお湯につかりながら音楽を聴く。よくある使い方だと思います。ところが取扱説明書を確認すると「お湯での使用は保証対象外」と書かれている製品も少なくありません。知らずに使い続けて、半年後に音が出なくなった、というケースもあります。
ここは迷うところですが、メーカーが「入浴中の使用に対応」と明記している製品であれば、基本的には問題ありません。防水規格だけでなく、お湯や入浴剤への耐性を個別にうたっている商品も増えてきています。判断材料にすべきは規格の数字ではなく、製品ページや説明書の具体的な注意書きのほうです。
防水と防滴、同じ意味だと思っていないか
これは別物です。防滴は水しぶきや軽い雨に耐える程度、防水はもっと広い範囲の水環境に耐えることを指します。言葉が似ているので混同しやすいのですが、実際の性能差はかなり大きいです。
なぜ混同が起きるかというと、どちらも「水に強そう」という印象を与える言葉だからです。しかし防滴は多くの場合IPコードで言えばIPX2〜IPX4程度を指すことが多く、水滴がかかる程度を想定しています。一方で防水と呼べるのはIPX7以上あたりからで、水没にも一定時間耐えられることを意味します。数字を確認せずに「防滴」「防水」という言葉だけで安心してしまうと、想定と実際の性能にズレが生じます。
たとえば屋外で使うワイヤレスイヤホンを選ぶとき、「防滴仕様で安心」と書かれたパッケージを見て、ランニング中の汗や小雨くらいなら平気だろうと判断するのは、ある程度は正しいです。しかしそのまま洗面所で水洗いしたり、うっかり洗濯機に入れてしまったりすると、故障する可能性が高くなります。防滴は「かかる水」には強くても、「浸かる水」には弱いことが多いのです。
例外もあります。最近は防滴表示でありながら、実際にはIPX5やIPX6相当の試験をクリアしている製品も増えてきました。パッケージの表記だけでなく、製品仕様のページでIPコードを確認する癖をつけると、誤解をかなり減らせます。
海やプールでも防水なら壊れない、は正しいか
正しくありません。海水やプールの水は真水とは性質が違うため、防水表示があっても故障のリスクが上がります。
理由は塩分と塩素にあります。海水に含まれる塩分は、スピーカーの穴やイヤホンのメッシュ部分に結晶として残りやすく、金属端子を腐食させる原因になります。プールの水も塩素が含まれていて、長時間触れるとパッキンのゴムを劣化させることがあります。防水試験の多くは真水で行われているため、塩分や塩素への耐性は別問題として考える必要があるのです。
場面を挙げると、海水浴でIP68のスマホを使って写真を撮り、そのままポケットに戻した、というよくある流れがあります。このとき海水がついたまま放置すると、数日後に充電口の反応が悪くなることがあります。これは浸水したからではなく、塩の結晶が端子に入り込んで接触を妨げているケースが多いです。使用後に真水でさっと洗い流し、しっかり乾かすという一手間があるかないかで、寿命がかなり変わってきます。
迷いやすいのは、「水泳対応」とうたっている製品の扱いです。スイミング用の防水イヤホンなどは、プールでの使用を想定して塩素への耐性もある程度考慮されています。ただしこれも海水までは保証していないことが多く、商品ごとの対応範囲を確認したほうが安全です。
防水性能は買ったときのまま一生続くのか
続きません。防水性能は経年とともに落ちていくのが普通です。永久に初期性能が保たれるわけではない、と考えておいたほうがいいです。
これは構造上の理由があります。防水はパッキンやシーリング材と呼ばれるゴム部品が隙間をふさぐことで成立しています。ゴムは熱や紫外線、経年劣化によって硬化したり、わずかに縮んだりします。一度でも分解修理をしたり、落下の衝撃で筐体にゆがみが出たりすると、隙間ができて防水性能が落ちることもあります。メーカーが「防水性能は永久に保証するものではない」と注意書きを添えているのは、こうした理由からです。
具体的には、購入から2〜3年使ったスマホを「前と同じように」海やプールに持ち込んで、浸水トラブルが起きる、という話があります。買った当初は問題なかったのに、劣化に気づかないまま同じ使い方を続けた結果です。バッテリー交換や画面修理をしたあとは特に注意が必要で、修理のたびにパッキンを交換していない場合、防水性能が落ちていることがあります。
ここで一つだけ判断の基準を示すなら、落下させた経験がある機器、分解修理をした機器は、防水性能を過信しないほうがいいということです。見た目は無事でも、内部のシーリングがずれている可能性はゼロではありません。心配なら、メーカーや修理業者に防水性能の再確認を依頼するのも手です。

